8月28日水曜日
夜1度目が覚める。弟がとてもすてきなもなかを選び、
ふたつめの夢では、わたしが車のキーを持っていて、
昨夜は歩いてみた。28分。しんどくはなかった。ただ、
怖いながらも、「すてきな事務員さんになる」と考えてみる。
「インスタ映え」という言葉を聞くたびに、胸がすく。
わたしは、怖い。
なんでもないことが怖い。
なんでもないことをよろこべるようになりたい。勉強したとか、
「すてきな事務員さんになる」
網戸と窓のあいだに蟻がいる。
「鳩が奥さんをつれてきた」
「石鹸がどろどろになる。石鹸をどろどろにされる」
わたしはにどと直らない。
わたしはにどとふつうのひとにはなれない。
わたしはわたしの奴隷。
母が朝起きてくれなくて、朝ごはんのパンがなくて、ごはんで、
たがをはずすのはわたしだ。
「障害者は自分で署名できない」と父が13回言う。朝。
時間は1時間押した。投げ出そうとしている。
なぜわたしはなにひとつゆるされなかったのだろう。
いや、ゆるされはしない。けしてゆるされはしない。
なぜならばおまえはうまれつきの欠陥で、
自分を殴り殺すこと。
自我を消すこと。
目を覚ましてはならない。
夢見てはならない。
地獄はここにはない。
わたしが地獄そのものだ。
腕に穴を開けてその穴から現実を覗きたい。
ファンデーションの存在をすっかり忘れている。
いまにも失神しそう、身体の感覚が失われていて、
身体を動かす仕事をしていた時期は、いま振り返ってみると、
かで、歩いた。ほんとうに、なんど、
もしかすると、
失神しそうなときに走れるか。たぶん、走って、
身を固くして、これ以上なにひとつ起こりませんように、
「そうだ、服をひとつ買ってみようかな」と思いついて、風が、
似た身なりのひとを見かけた。
ひとつなら、できるかもしれない。ひとつなら、
お店のホームページを見て、下見しておいて、
それからおかしくないかもしれない。
風がふきぬけていく。
すこし暑い。
8月27日火曜日
寒い朝。夢を見続ける。
昨夜はやや頭が休まろうとする。ほかのことを考える。
心臓がずしん、痛む。
朝靄の中。
猫いない。
はぴいない。
はぴおはよう、朝だよ。
この前しんどかったとき、はぴみたいだな、とおもったよ。雨の日
今朝はなぜかなにか怖い。怖いかんじがある。窓の鍵がかかってい
腰が痛い。
他人の話ほどに現実は単純ではない。別の道を選んでいたら、とい
人間のすくなさにとまどうことがある。いざとなったら自転車に乗
わたしは、自分が間違っている気がして、いますぐ直して、完璧な
のびのびとノートが書けたときのよろこび。綺麗な字ではない、斜
雨降りの中を猫がたたずむ。しっぽが上を向いている。
怖い気持ちが今日は多くある。怯えている。
ひとつぶでも多くのひまわりの種を。冬に備えよ。
これはエッセイでも日記でもない。だからよかった。だれに言い訳
肌寒いこと。自転車。すこし頭が疲れたようだ。
一昨日の夜は頭痛がした、頭がとても重くなって、芯がなくなった
フロムを読むこと。
すずめは来なくなってしまった。この場所が恐ろしい場所になって
秋の穂はすでに刈り取られて、いまは2番米が青い葉を伸ばしてい
すずめ。
からす。
目白は1度来て、それからは見ない。
窓を閉める。
窓を開ける。
人間の足音。
わたしは無害なものになりたい。
今度通う職場では、ものを言わずに、たまにうなずいたり、さらに
人間の声。
人間はみな殺す。わたしは殺される。人間はみな潜む。わたしは倒
雨になりたい。
だれもいないひろい自然の中でたったひとりでいること。すこしま
歩いて、呼吸をして、すこし、話をしてもいい。
たったひとりで。
ヤマガラや。
ここ1週間くらいのうちに、日に1枚くらいずつ、葉が枯れていく
鳥になりたいだろうか。わからない。夢の中では何度も何度も、飛
落下する。とても高くから。空気を裂いていくかたはし空気がわた
頭頂部から線路に落ちたこともある。
飛ぶときは低い。ほんの1メートルかそれくらいの高さを飛んでい
恐怖。
恐怖。
やまがらのように飛びたい。びゅん、滑空、びゅん、滑空。
高い声。
ぬいぐるみを欲している。はじめは蛙だった。長く伸びた手足にビ
抱き締められるぬいぐるみをひとつ、欲しい。抱き締める。
それからちいさなぬいぐるみをひとつ、欲しい。鞄かポーチかどこ
意外なかんじがある、自分に対して。ぬいぐるみを欲しがって、ぬ
自分に、「鶴を折ることを許そう」かと考えたりもする。鶴は狂う
頭がすうーっとしたのかもしれない。
わたしは自分を切り裂くとき、罰のつもりだったが、頭を鎮めよう
鶴はたぶん折らないほうがいい。ほかのことをしよう。
なにか、ほかのこと。
本を読むとか。
字が読めなくなることが怖い。怖くて考えていない。しかし読めな
泳ぐこと。現実の中を泳ぐこと。
小学生のとき授業で溺れて、だれにも気づかれず、わたしはがたが
水とはなんだろうか。溺れるまえから、わたしは寒さと水圧で、心
先生は神さま。だってパパは神さまだから。
へんなの。先生が怒ったから、先生が声をあげて、先生が机を蹴り
先生は神さまなのに。
ひとりひとりの先生は神さまなのに。
わたしたちは神の子なんだよ。
わたしが教師に歯向かったのは、3度。
遅刻したわたしたちを教師が教室の前に立たせて、理由を詰問した
この中に犯人がいる、犯人自身が告白するか、ほかのものが密告す
最後は、模試で合格点数すれすれだったわたしを補習のリストから
こうして振り返ってみると、わたしも、すこしずつ成長しているよ
神の子が、神に勝った。自由を獲得した。
のなかあ。
3番目の教師とは和解した。1方的にキレていただけだったし、そ
つぶれてしまいそう。
怖くて、怖くて、怖い。
じっとしている身体がここにあるままで引き裂かれていく。
8月26日月曜日
父の笑う声が聞こえる。努力が足りないと呆れられ笑われた。努力
ふたつのものに挟まれて、どっちつかずなわたしは、自分を引き裂
高級なこと、贅沢なことをしている気がして、つぶれそうになる。
ひつようなことをしているだけ、とはおもえない。するべき準備を
夢を見続ける。ひとつの夢にははぴがいる。はぴはだれかの足の先
もうひとつの夢では、わたしは出勤しようとしている。肌寒い朝で
いから、忙しくするみなの間をやがて通り抜ける。そのときにもう
もうひとつの夢では、知らない場所にいる。学校のような作りで、
今朝も寒い。からすの声だけが聞こえる。
昨日は極端にうまくいかなかったけれど、実際のところの問題点は
気持ちが苦しくなると、自分を苦しめることで答えを合わせようと
昨日は休憩もなくなり、深呼吸もなくなり、とにかくあらゆること
休むということの難しさを痛感する。
自分勝手に努力していると考えることをやめて、まあ、やっておい
それから、そのことにばかり集中してしまう、しかも過集中してし
うまくいかなくても、いまならば、振り替えれる。ほかの方法を試
考えぬからないこと。
わたしは死ぬということ。
働けることに感謝して、がんばる、けれど、全力を注がないこと。
生きることを手放さないこと。
時間ではない。わたし自身の取り組み次第だ。
ふつうの格好をしているひとをうらやましくおもうのは、モンブラ
社会の中に入り、そこで働き、他人と挨拶をすること。それはわた
できっこない。
だから、あきらめるのではなくて、自棄になるのでもなくて、ほど
うまくやることよりも、うまくやることを考えよう。
優しいひとになりたいから。
生理がはじまって驚く。
『ワン・プラス・ワン』のなかで、ケバブを食べたことをあなたは
父は、したせいだ、したからだ、自業自得だ、わかりきっている、
しかしそれもわたしのせいなのだった。
寝落ちする。
今日の予定のものは終了した。おつかれさま。今日はここまででい
寝落ちして、目覚めた直後に冷凍庫のひときれのアイスを食べる。
でも今日はがんばれました。
1日3つが限度かなとおもう。
将来?
社会への入門試験。それが3年くらい、つづくだろうか。働いて、
わたしはいまでも、自分の人生をわかりやすくしたい。こう生きる
働きながら、ほかのテキストを読むことは、できないのかもしれな
まるで、この道しかない、この仕事で結果を出して、この仕事で転
あるいはやはり社会入門の1部として如才なくやり遂げ、そして、
自分には向いているとはおもえなくて(頭を使う仕事は苦しくなる
だが、わたしの頭では、仕事と両立できないのかもしれない。そし
けっきょく、わたしは、「身をこにして働く。自分の時間などない
事実としては、父も母も、そんな暮らしの中でどうにかして自分だ
ならば、そのように生きればいいではないか。
そのとおりだ。
家族に感謝すること。自分を止めないこと。ひとつずつ取り組んで
わたしはふつうのひと。病気ではない、障害をもたない、五体満足
わたしは、病気のひと、障害のあるひと、五体不満足のひとと、お
炭酸の入ったペットボトルを逆さまにしたまま蓋を開けたら、それ
夜歩いていると、頭が冷静になるからだろうか、自分にもっと、ち
8月25日日曜日
昨夜は声が多い。とても多い。
雨が降っていた。
くるしい夢ばかり見る。ひとつでは、最後には大波がきて、けっき
混乱した夢、たくさんのひとびとがいる夢、なにごとかのわからな
朝晩は寒い。
はぴがいない。
4、5日前から、舌のどこかが痛い。どこなのかわからない。夢の
眠る前に、現実に怯む。
今日はお休みの日。今日はお休みの日。本を読んで、刺し子をする
(できなくてもだいじょうぶ。だいじょうぶだよ)
はあ……
寒くなったから、母が布団を出してくれる。ベッドの上に広げる。
今日はお休みの日。
シーツの中にたくさんの羽根とビーズが入っていて、部屋に舞った
舌の傷を見つける。
変化に対応できない。ベッドの上に座れなくなったことにどう対応
人間はどうすればいいのだろう。どこに座って、どこにいれば、い
わたしのものではないようなものに押し潰されそうにかんじること
なにもかにもわからなくて苦しい。
わかりやすくしたい。
今日はお休みの日。けれど寒くて、部屋が変わって、わたしはわか
机に向かう。壁に向かう。わたしは外が見たい。わたしは身体をや
気持ちが沈んでいく。
変わったことに対応できない。
むしろ休まらなくなっている。むしろ本など読めていない。だんだ
腹を立てている。まったくもって。
どんどん難しくなる。
話がぜんぜんちがう。
暑い。
休みたい。
どこで?
休みなどないのだ。安らぎなどないのだ。そしてふつうのひとのよ
わたしはわたしの自我を薄めていく。
目覚めてはいけない。
目覚めてはいけない。
父が、「こいつはばかだ。なんてあほなんだ」と言う。
目覚めてはいけない。
今日出掛けたときには、「わたしは自分をぼろ雑巾のように扱おう
帰宅して、母の役に立ったことを、うれしく考える。今日1日うま
今日は身体に力が入らない。
そして、「こいつはばかだ。なんてあほなんだ」、と言う。聞く。
目覚めてはいけない。
ここから目を覚ましてはいけない。
お化粧をして、ふつうの服装をして、鞄をもって歩いている、ふつ
わたしはじぶんがくるしい。
メモを見ても、恥ずかしくなる。なにさまなのか。とにかく身がす
勉強しても恥ずかしくて、しなくても恥ずかしい。
くるしいのに、どこにも休めない。
休み方がわからない。
目覚めてはいけない。
こんなに身体に力が入らない。
ここはわたしが安らいでよい場所ではない。わたしにはそんな資格
ごくつぶしだから。
ほら、だから、元気を出してよ。
元気を出して。
働いたらいいね。
勉強したらいいね。
そうしたらきっと…
自分であることがくるしいや。
心があることがくるしいや。
要らない。
わたしはわたしが要らない。
頭が冷たい。
勉強なんかしてばかものだ。
勉強すらしないでばかものだ。
どこにいてもなにをしてもあほだ。
それなのになぜ生きているの。
わたしが生きる意味はわたしにない。
金にしかない。
わたしのミラクルクエッションのことは考えられていない。
生きるのがつらい。
ひとりぽっちがつらい。
家族といたい。
いられない。
ごくつぶしだ。
でもどこにいてもなにをしてもなにになっても、それは変わらない
わたしは手にできない。
そんな、人生。
楽しみはない。
希望はない。
自分で持てない。
そんな力ない。
頭が冷たい。
ばかだと言われて、あほだと笑われて、そんな人生。でもほかにな
わたしの人生はわたしに捨てられた。
わたしは家族に…
働いて、それで家族がよろこんでくれるといいね。
いいね。
身体を切り刻む。
8月24日土曜日
早く起きてしまう。目が覚めても横になっていること。我慢できず 、起きてしまう。あまりよくない。
冊子を読む。
たくさんの奇妙な夢を見続けている。
わかりやすくできない。わかりやすくしようとしているが、わから なくて、わかりやすくできないでいる。
昨日母が、弟の態度をどうかしらと言う。1千万円以上も大学費用 として出させておいて、あの態度は理解できない。 母の言い分はわかる。わかりすぎるほどだ。わたしと弟には、 甘えがあるだろう。しかし、弟が、「たいへんな費用をかけて育て てもらった恩を背負っている」と自覚して、 生きていけるだろうか。恩に見返るほどの存在である、 存在になる、と覚悟できるだろうか。 弟には仙人のようなところがある。なにも悟りを開いているふうで はないし、友だちとはよく話すし、子どもの頃から、自分がやりた いことは犠牲にせずにうまくもちつづけているようだった。 おしゃれだし、玄米を食べている。ふつうの青年だろう。それでも どこか超然としたところがあって、もしかしたら、僧侶とか、 登山家とか、phaとか、絵本作家
なんかになっていても、おかしくないかんじがある。10年を1日 として生きている。いろいろなことはやるが、精神がなにかを貫い ている。父に似ていて、父よりも器用に生きている。 挫折が早かったからかもしれない。
あるいはある日とつぜん女の子と結婚して、子どもをつくってもお こしくない。弟は、たぶん、どこに、だれといても、 自分の人生を生きていくだろう。だがそれは、みなそうではないか 。
学費のことも生活費のことも、子どもの頭から消えてなくなりはし ない。態度に表さなければ、他人にとってはないとおなじだ。
わたしたちは大人になれなくて、なりたいとはおもっているが、う まくなれなくて、子どものような息ばかりしている。
朝早く起きすぎた。不安なのだろう。加速している。加速してはな らない。我慢してほしい。
じっと我慢してほしい。
がむしゃらになってはならない。
がむしゃらになってうまくいく頭はもうないのだから。
身体がふわふわしていた。それでも出掛ける。ひとがたくさんいる 。立ったまま、時間が経つ。
不安でも動くしかない、しんどくても歩くしかない、そんな話が血 液の中を、骨の中を、走り回っていて、騒がしい。
つぎの場所に移動しながら、「これは…」とおもう。動いていたら 、落ち着いてくることもあれば、今日のように、自分が考えている よりも身体は苦しんでいて、くずおれてしまいそうになる、日も、 ある。
手にも足にも力が入らない。脳貧血が起きている。深呼吸をする。 心臓はだいじょうぶ。けれど、身体が、重くなるはずなのに、薄く 、まばらになる。
倒れるのかもしれない。不安でたまらないはずなのに、頭は白くな っている。震えているかもしれないと、自分の手を見た。
お湯を飲む。
重いものに引っ張られて、転びそうになる。
待っている。
もうすぐ帰り道。
そのときようやく、納得する。「これはあまりよくない状態だ」
倒れるのか、倒れたら、こんなところで…
目の前が真っ白になって、真っ黒になって、そうして意識が遠退い て、それでもわたしは歩くが、やがて倒れてしまう。
それを知っている。
倒れるのかもしれない。
どきっとする。
何度か、どきっとする。
あー、あー。
もう知るか。倒れるなら仕方がない。倒れるしかない。
もう知るか。勝手にしてくれ。
踵をどんと下ろす。
感覚のなくなった小枝かもしれない足をだんと下ろす。
ずん、ずん、床を踏みつけて、歩く。
知るか。
勝手にしてくれ。
それは、帰り道だったから、もちこたえたのだろうか。わからない 。
昨夜考えていた。行動するしかない、という言葉は強い。そして、 行動するしかないところで行動して、ひとは克服していく。その事 実も強い。とても強い。
だが、行動の中で一線を越える精神もある。にどと戻れないところ へ行ってしまう場合があることを、強い話のあとには、 するべきではないか。
・怖くて動かない
・怖いけど動いて動ける
・怖いけど動いて壊れる
そういう話を、たくさんの行動療法の、強い話のあとに、してほし い。
今日の身体のよくないことのいくつかの要因かもしれないこと
・ものがわからなくなっている
・メモがわからなくなっている
・4時に起きて読んだ
・曇り空
・寒い朝
・寒い午前中の風
・午前中ゆっくりできなかった
・午前中あたたかいものを飲んでトイレに行くことができなかった
・朝食の前になにも飲み物を飲まなかった(いきなり食べた)
・行動がわからなくなっている
・わからないことを考えつづけている
・運転する目の前で女のひとが飛び上がった
・男のひとが振り返る
・昨夜散歩がおかしかった
・昨夜男のひとと赤ん坊とすれ違う
・昨夜母が「ニュースをつけて」と言う
・立ったままでいる
・自分の顔が醜い
・カート・ヴォネガット全短編集を3巻読んでしまってあと残りひ とつしかない
・バインダーが700円と書いてあって高すぎて200年ほど使っ てもとをとらねばならないこと
・弟ががたごと言っている
・出発前に母がいなくなる
・出発前に父が「出掛けるのか」と訊いてきて驚いてうまく返事か できない
・自分の身だしなみが恥ずかしい
・シャッターが閉まっている
わたしの身体をわたしの身体から…
むずかしくてわからない、できない、って、言っていいんだよ。
急ぎすぎているし、やりすぎている。
わからないから、焦るのだろう。
ほかのひとよりもがんばらなきゃ。できることぜんぶしなきゃ。
ほかのひとができることよりもできなきゃ。ぜんぶがんばらなきゃ 。
与えられて唯一の機会だから。
最後の機会だから。
8月23日金曜日
奇妙な夢ばかり見る。複雑で、もの悲しい。ひとつの夢では、ひと りも人間がいない、とおもったら、ひとりだけいた。
早めに起きてしまう。時計を見てしまったのだ。トイレットペーパ ーがなくなったから。布団の中にいたが、メモをすることにする。
社会への参加試験だ。最後の機会でもある。
そこが最後で最初だが、最後にはならない。
社会人になったら、気兼ねなく、勉強できる気がしていた。そうは ならないかもしれない。そんな勉強よりも、こちらを勉強するべき だろう、そんな声。
そこでがんばること。ここでがんばること。それからさきは、きっ と、べつのところに変わる。
そのことを忘れないで、歩くこと。
身体がぎちぎちだ。やすらげない。加速。やすらごうとして身体が 謀反を企てる。
ノートもわからない。なにもわからない。なにもわかりやすくない 。メモもない。
よくないかんじではないけれど、頭が落ち着いていない気がして、 音楽を1曲聞く。そういうことができることに、胸が満たされる。 ほんのすこしのこと、あるかないかのこと、それがわたしの、かけ がえのない、成長だった。
感謝すること。
父が英語に憧れる理由をかんじた気がする。ものが言いたい、それ だけなのかもしれない。
ヨーロッパの山並みを見て、ビルだらけの日本をこきおろす。美術 品を見て、殺して盗んできた、と言う。父はそういう考え方をする 。
人間に留学する。
人間に留学するインターン生。
ファンデーションを塗った。えらい。えらい。今日は母と出掛ける 日。目の前を見ること。
抜まつげ癖をやめないと、はげてしまう。
こんなふうに1日1日を生きていて、ある日ミサイルに殺されたり するのか。明日や、明後日や今夜、地面が裂けるのか。
ふしぎなかんじもするし、ふしぎでもないかんじもする。精神視野 狭窄であると同時に拡散している。
いまの時代とか、この国とか、文化とか、消費税とか、そういう話 を父はする。大真面目にしている。それはたぶん、おかしなことで はない。
わたしは、なんだか、そういった話と現実と現実の折り合いがつか ない。他人がしたら非難することを自分では平気でしたり(運転) 、国境がどうとか…税金、虐待、廃棄物、肉食…
わからないのだ。みな平気な顔をして、議論をして、意見を言って 、非難して、指差しあって、それから、生きている。
なんで生きられるの。
生きてる場合じゃないのに。
頭ではわかるのだ。あらゆる問題を、ひとつずつ解決するなんて無 理で、だからあらゆる問題を、ひとそれぞれが関心をもてばいい。 だれかがひとつ取り組んで、ほかのひとはほかの話をして、 それでいいのだろう。同時なのだ。並列。拉致も、 マグロが死なない水槽も。
頭ではわかる。だが、精神が混乱してしまう。いまだれかが地雷を 仕掛けている。それは地球の話だ。
地球。
頭がすこしへんだ。
白猫いる。
白猫以外いない。
今朝はからすがなんわもいた。じゅうくらいいた。
気持ちが落ち着かない。苦しいというよりは、興奮しすぎているの だろう。
8月22日木曜日
奇妙な夢ばかり見る。入眠前は頭が加速して、深呼吸をするが、頭 は止まらない。
直らない。にどと元には戻らない。
そのことを忘れないこと。
よくない。目の前がわからなくなっている。まったくよくない状態 になっていることにも、気づいていない。
見捨てられたもの、見放されたもの、だれからもかえりみられなく なり、あとは自殺を待たれるだけだった。
奇跡のようなことだ。応える。
全力で応える。わたしはわたしに懸ける。できることはすべてする 。予習をして、訓練をして…。
(わたしは全力で取り組む。そうすべきだし、わたしはそうするだ ろう。それはまちがいではない。それでも、ひとつだけ、 忘れてないでほしい。この与えられた奇跡のような機会が、わたし の命を永遠にするわけではない、ということ。数ヵ月、数年、 人生を引き伸ばしてもらえるだけなのだ。ギフト。そう、これはギ フトだ。だから、没頭しても、没頭しないでほしい。生きることを 忘れないでほしい。死ぬことを忘れないでほしい)
わからなくなりすぎている。なにか、ほどかなければならないので はないか。精神が凝縮しすぎている、同時に、拡散しすぎている。 わたしというまとまりがまとまりを欠き、なお絡み合っている。
なにか、ほどかなければならない。
午前中、時間を間違える。気づいて、自分の混乱にも気づく。
なにの余裕もなくなっている。まだはじまってもいないのに。いや 、はじまっている。
気持ちが急いているわけではない。意識は急いていて、無意識も急 いているが、気持ちは呆然としている。
昨日立ち読みした本に、「スーパーノーマル」と書かれてあって、 兄に手がかかりすぎたせいで、優秀な正常な妹は家族に愛されなか った、というような話だった。噛みつく仔犬と可愛い仔犬ならば、 可愛い方を捨てる、なぜならば拾ってもらえるだろうから。
わたしはこういった話に限らないが、簡単に、両親が悪い、頭がお かしい、普通じゃない、可哀想、そうかんじることも、言うことも ない。
戸惑うだけだ。
心細くてたまらない、と言うこともできるだろうか。離れなければ ならなくなり、しかもひとりでやる自信はなく、頭はいっぱいで、 いますでに震えはじめている。そんな自分をなぐさめて、 なんでもないことだよ、普段通りにすごそう、出掛けよう、 おいしいね、かわいい猫を見よう、そう、 言ってほしいのだろうか。
どんどん離れていく気がするのだ。離れたらふたたびここには戻れ なくなり、わたしは…
昨夜、はぴと歩いた道を、散歩する。はぴはいなくて、母もいなく て、はぴとおなじ故郷の、いろのちがう、犬もいなくて、みんな、 死んでしまったみたいだった。現実などなくなってしまったみたい 、なにもかもがずれていて、わたしと目の前がずれていて、 わたしはまるで、わたしを見ているようだった。
はぴがいないこと。
はぴがいかいこと。
気を紛らせられないこと。
わけがわからない。
たすけてくれ。だれか引っ張り戻してくれ。
取り組みはやめないから、ちゃんとやるから、だけど、わたしにわ たしを見失わせないで。
わたしだけがずれていく。
わたしだけがいない。
わかりやすくしたいのに、それもできない。
目覚ましが鳴るまで目を閉じている。
わたしが話すと、とたんに父が大声をあげる。「おい、おい、おい 、おい!」そして、母はわたしのことを忘れて、わたしは歯を磨き 、いなくなる。
それはそうだろう。なぜ父と母が、わたしを大切に扱ってくれるだ ろうか。いまになって。
自分にも現実にももううんざりだ。混乱を混乱で打ち消して苦しみ を苦しみで打ち消して痛みを痛みで打ち消して、 打ち消せてねえよ。
打ち消せてねえよ。
麻薬だ。
現実が現実を麻薬にして現実を見ている。
わたしはこんなふうに生きたくない。適当に曖昧に意義もなくうや むやにだれでもないかのように夢のように生きたくない。 地に足つけて、なにひとつ見逃したくない。なにひとつ適当に扱い たくない。わたしのなかでわたしをひとつも潰さない。 ひとつも無視しない。要らないものみたいに、 知らぬ間に管理させられているみたいに、自殺を待つだけのために 、生きたくない。
わたしはわたしをあしらいたくない。掴んで、ゆさぶって、なんど でも、引きずり立たせる。生きろよ、そう言って、反対意見は認め ない。死ぬ気で生きろよ。死ぬときも生きる気で…
ふたつを交互に行うルーチンを用意しておくこと。そうすれば、飽 きるまでに時間がある。また、片方を変えることになっても、その 動揺を、もう片方が落ち着かせてくれる。
母はもう、わたしのことをあまり心配しないことにしたのだろう。 未来が決まったわたしは、すっかりよろこび、もうなにも心配はい らず、あとは自動お掃除ロボットのように、するべきことを果たし ていく、しかもよろこんで! そうおもっているのだろう。そんなわけないのに。人間の心がそん なふうに単純なわけない。
とおもいながら、こうしてやけになったり、すねたり、へこたれて 、自暴自棄に、心細く、かなしみに暮れる、子どものような自分を 、なんとなく、見ていた。かんじることと、わたしそのものとの距 離だろうか。
母の心も単純ではないだろう。
母は父を選んだ。父に付き従い、かまい、気にしつづけなければ、 食べてこられなかった。わが子よりも、父の動向にひっきりなしに 揺さぶられる。わたしたちは、父という舟に乗り合わせた、 力のないものたちだった。
声を出すことと、暴力を振るうことは、似ているようだ。頭では、 いざとなれば、その心がけ次第で、声は出せる、殴れる、と考えて いる。しかし実際におよんでみると、身体はすくんで、なにも出て こない。
大学から帰ってきたばかりのころ、弟が、荷物を代わりに受け取っ たわたしに、わざわざ、「ありがとう」、と言ってきた。
わたしはあのひと言を忘れていない。
弟もわたしも、まるではじめから、ずっと前から、よくないものだ ったようにおもわれている。
父は支配する。父の無意識が支配する。
その大きな支配の中で、わたしたちは引き裂かれてしまった。父も だ。人間にはどうしようもない力があって、わたしたちに降り注ぎ 、その雨の中でも懸命に生きたから、いまもみな生きていて、 そしてまだ引き裂かれている。
頭ではわかるのだ。父がどれほどなにを言おうと、わたしたちは家 族と関わることをやめてはならなかった。母とも、兄弟とも、 父とさえも、関係をつづけるべきだった。そうしたかった。 そうできなかった。
引き裂かれながら、「引き裂かないで」と言うこと。
引き裂かれながら、「引き裂かれない」と言うこと。
人生の苦しみ。
けっきょくわたしは、父の言った通り、ただ弱く、努力が足りず、 だからどこにも、だれにも通用しない。
母は、父から離れることはないし、わたしは母を独占したがっては いけない。自分のためにいけないよ。でも怖いから、とても、 とても、怖いから、離さないでほしい。
日々、母の買い物のお手伝いをすることは、あきらめること。自分 の時間を、自分の努力に使うこと。その責任と重圧を負うこと。
その代わり、週に1度は、母といっしょに過ごすこと。過ごす時間 をめいいっぱい楽しむこと。
よりかからないで、隣を歩くこと。
じつは今日こそひとりで出掛けて、セブンイレブンのカフェオレを 飲んだりして、帰ってくると、よかったかもしれないね。
1時的には感情そのものになったりもするが、こうして、頭の隅や 、心の奥では、家族に感謝する気持ちや、自分という存在のゆるさ れなさを、忘れていない。
うまい具合の時間の過ごし方を見つける。無為に過ごす方法を見つ ける。そういうことをしたほうがよい。わたしは、みっちり、 しすぎているから。
だから弾けるし、身体もやすらがない。
「ひとりで行けたよ!」
頭の中でどんどん言葉になっていく。行動よりも言葉が先んじる。 ひとりで行けたよ、しかもひつようなものを見ただけじゃなくて、 ほかのものも見てみることができたよ。
そうして、頭の中がぐんぐん先に行く。動力を持たずに、ひきつら れていく。道を間違えたが、慌てずに、もとの道へと、合流した。
1年ぶりに入店した、と考えたら、2年ぶりなのだった。ひとはい て、しかし、とてつもない大勢ではなかったとおもう。わたしはあ まり周りを見ていなかった。半分は意識して、もう半分は言葉にひ きつられて。
明日は雨が降るかもしれなかった。雨が降ったら、出掛けられない かもしれなかった。だから出発した。夕方のこと。1時間あれば、 帰ってこられるとおもう。
書店にも寄った。普段寄る店舗とはちがっていたから、まあたらし いかんじがする。たくさんの本がある気がする。なにか1冊買って 帰ってもいいな、と考える。しかし、頭はこのごろのルーチンをし っかり忘れていなくて、衝動買いはよしとしなかった。
そんなことがうれしくて。ひとりで出掛けられたことも、出掛ける と言うと、母が笑顔で送り出してくれたことも、適切な買い物がで きたことも、明日のことを考えて今日行動できたことも、自分が落 ち着いていたことも、深呼吸もしたことも、それから、「ただいま 」が聞こえる声で言えたことも、うれしい。
父がうつむいてばかりいて、すこし気かとがめた。
父がよろこんでいる時間を、もっと認められるようになりたい。
母に、書店で本を1冊買ったら、おまえに小さなうちわをもらえた ことを話したかった。今日は話せそうにないけれど、 これからすこしずつ、話ができるようになる気がする。そういうふ うに向かう努力をできる気がする。
すこしずつ、みんな、生きている。