つよく生きているか

2019〜2020のくらむせかい,くらむの日記

8月22日木曜日

奇妙な夢ばかり見る。入眠前は頭が加速して、深呼吸をするが、頭 は止まらない。

直らない。にどと元には戻らない。
そのことを忘れないこと。

よくない。目の前がわからなくなっている。まったくよくない状態 になっていることにも、気づいていない。

見捨てられたもの、見放されたもの、だれからもかえりみられなく なり、あとは自殺を待たれるだけだった。
奇跡のようなことだ。応える。

全力で応える。わたしはわたしに懸ける。できることはすべてする 。予習をして、訓練をして…。

(わたしは全力で取り組む。そうすべきだし、わたしはそうするだ ろう。それはまちがいではない。それでも、ひとつだけ、 忘れてないでほしい。この与えられた奇跡のような機会が、わたし の命を永遠にするわけではない、ということ。数ヵ月、数年、 人生を引き伸ばしてもらえるだけなのだ。ギフト。そう、これはギ フトだ。だから、没頭しても、没頭しないでほしい。生きることを 忘れないでほしい。死ぬことを忘れないでほしい)

わからなくなりすぎている。なにか、ほどかなければならないので はないか。精神が凝縮しすぎている、同時に、拡散しすぎている。 わたしというまとまりがまとまりを欠き、なお絡み合っている。
なにか、ほどかなければならない。

午前中、時間を間違える。気づいて、自分の混乱にも気づく。

なにの余裕もなくなっている。まだはじまってもいないのに。いや 、はじまっている。
気持ちが急いているわけではない。意識は急いていて、無意識も急 いているが、気持ちは呆然としている。
昨日立ち読みした本に、「スーパーノーマル」と書かれてあって、 兄に手がかかりすぎたせいで、優秀な正常な妹は家族に愛されなか った、というような話だった。噛みつく仔犬と可愛い仔犬ならば、 可愛い方を捨てる、なぜならば拾ってもらえるだろうから。
わたしはこういった話に限らないが、簡単に、両親が悪い、頭がお かしい、普通じゃない、可哀想、そうかんじることも、言うことも ない。
戸惑うだけだ。

心細くてたまらない、と言うこともできるだろうか。離れなければ ならなくなり、しかもひとりでやる自信はなく、頭はいっぱいで、 いますでに震えはじめている。そんな自分をなぐさめて、 なんでもないことだよ、普段通りにすごそう、出掛けよう、 おいしいね、かわいい猫を見よう、そう、 言ってほしいのだろうか。

どんどん離れていく気がするのだ。離れたらふたたびここには戻れ なくなり、わたしは…

昨夜、はぴと歩いた道を、散歩する。はぴはいなくて、母もいなく て、はぴとおなじ故郷の、いろのちがう、犬もいなくて、みんな、 死んでしまったみたいだった。現実などなくなってしまったみたい 、なにもかもがずれていて、わたしと目の前がずれていて、 わたしはまるで、わたしを見ているようだった。

はぴがいないこと。

はぴがいかいこと。

気を紛らせられないこと。

わけがわからない。
たすけてくれ。だれか引っ張り戻してくれ。
取り組みはやめないから、ちゃんとやるから、だけど、わたしにわ たしを見失わせないで。
わたしだけがずれていく。

わたしだけがいない。

わかりやすくしたいのに、それもできない。

目覚ましが鳴るまで目を閉じている。

わたしが話すと、とたんに父が大声をあげる。「おい、おい、おい 、おい!」そして、母はわたしのことを忘れて、わたしは歯を磨き 、いなくなる。
それはそうだろう。なぜ父と母が、わたしを大切に扱ってくれるだ ろうか。いまになって。

自分にも現実にももううんざりだ。混乱を混乱で打ち消して苦しみ を苦しみで打ち消して痛みを痛みで打ち消して、 打ち消せてねえよ。

打ち消せてねえよ。

麻薬だ。

現実が現実を麻薬にして現実を見ている。

わたしはこんなふうに生きたくない。適当に曖昧に意義もなくうや むやにだれでもないかのように夢のように生きたくない。 地に足つけて、なにひとつ見逃したくない。なにひとつ適当に扱い たくない。わたしのなかでわたしをひとつも潰さない。 ひとつも無視しない。要らないものみたいに、 知らぬ間に管理させられているみたいに、自殺を待つだけのために 、生きたくない。
わたしはわたしをあしらいたくない。掴んで、ゆさぶって、なんど でも、引きずり立たせる。生きろよ、そう言って、反対意見は認め ない。死ぬ気で生きろよ。死ぬときも生きる気で…

ふたつを交互に行うルーチンを用意しておくこと。そうすれば、飽 きるまでに時間がある。また、片方を変えることになっても、その 動揺を、もう片方が落ち着かせてくれる。

母はもう、わたしのことをあまり心配しないことにしたのだろう。 未来が決まったわたしは、すっかりよろこび、もうなにも心配はい らず、あとは自動お掃除ロボットのように、するべきことを果たし ていく、しかもよろこんで! そうおもっているのだろう。そんなわけないのに。人間の心がそん なふうに単純なわけない。
とおもいながら、こうしてやけになったり、すねたり、へこたれて 、自暴自棄に、心細く、かなしみに暮れる、子どものような自分を 、なんとなく、見ていた。かんじることと、わたしそのものとの距 離だろうか。
母の心も単純ではないだろう。

母は父を選んだ。父に付き従い、かまい、気にしつづけなければ、 食べてこられなかった。わが子よりも、父の動向にひっきりなしに 揺さぶられる。わたしたちは、父という舟に乗り合わせた、 力のないものたちだった。

声を出すことと、暴力を振るうことは、似ているようだ。頭では、 いざとなれば、その心がけ次第で、声は出せる、殴れる、と考えて いる。しかし実際におよんでみると、身体はすくんで、なにも出て こない。

大学から帰ってきたばかりのころ、弟が、荷物を代わりに受け取っ たわたしに、わざわざ、「ありがとう」、と言ってきた。
わたしはあのひと言を忘れていない。
弟もわたしも、まるではじめから、ずっと前から、よくないものだ ったようにおもわれている。

父は支配する。父の無意識が支配する。
その大きな支配の中で、わたしたちは引き裂かれてしまった。父も だ。人間にはどうしようもない力があって、わたしたちに降り注ぎ 、その雨の中でも懸命に生きたから、いまもみな生きていて、 そしてまだ引き裂かれている。
頭ではわかるのだ。父がどれほどなにを言おうと、わたしたちは家 族と関わることをやめてはならなかった。母とも、兄弟とも、 父とさえも、関係をつづけるべきだった。そうしたかった。 そうできなかった。
引き裂かれながら、「引き裂かないで」と言うこと。
引き裂かれながら、「引き裂かれない」と言うこと。

人生の苦しみ。

けっきょくわたしは、父の言った通り、ただ弱く、努力が足りず、 だからどこにも、だれにも通用しない。

母は、父から離れることはないし、わたしは母を独占したがっては いけない。自分のためにいけないよ。でも怖いから、とても、 とても、怖いから、離さないでほしい。

日々、母の買い物のお手伝いをすることは、あきらめること。自分 の時間を、自分の努力に使うこと。その責任と重圧を負うこと。
その代わり、週に1度は、母といっしょに過ごすこと。過ごす時間 をめいいっぱい楽しむこと。
よりかからないで、隣を歩くこと。

じつは今日こそひとりで出掛けて、セブンイレブンのカフェオレを 飲んだりして、帰ってくると、よかったかもしれないね。

1時的には感情そのものになったりもするが、こうして、頭の隅や 、心の奥では、家族に感謝する気持ちや、自分という存在のゆるさ れなさを、忘れていない。

うまい具合の時間の過ごし方を見つける。無為に過ごす方法を見つ ける。そういうことをしたほうがよい。わたしは、みっちり、 しすぎているから。
だから弾けるし、身体もやすらがない。

「ひとりで行けたよ!」

頭の中でどんどん言葉になっていく。行動よりも言葉が先んじる。 ひとりで行けたよ、しかもひつようなものを見ただけじゃなくて、 ほかのものも見てみることができたよ。
そうして、頭の中がぐんぐん先に行く。動力を持たずに、ひきつら れていく。道を間違えたが、慌てずに、もとの道へと、合流した。
1年ぶりに入店した、と考えたら、2年ぶりなのだった。ひとはい て、しかし、とてつもない大勢ではなかったとおもう。わたしはあ まり周りを見ていなかった。半分は意識して、もう半分は言葉にひ きつられて。
明日は雨が降るかもしれなかった。雨が降ったら、出掛けられない かもしれなかった。だから出発した。夕方のこと。1時間あれば、 帰ってこられるとおもう。
書店にも寄った。普段寄る店舗とはちがっていたから、まあたらし いかんじがする。たくさんの本がある気がする。なにか1冊買って 帰ってもいいな、と考える。しかし、頭はこのごろのルーチンをし っかり忘れていなくて、衝動買いはよしとしなかった。
そんなことがうれしくて。ひとりで出掛けられたことも、出掛ける と言うと、母が笑顔で送り出してくれたことも、適切な買い物がで きたことも、明日のことを考えて今日行動できたことも、自分が落 ち着いていたことも、深呼吸もしたことも、それから、「ただいま 」が聞こえる声で言えたことも、うれしい。

父がうつむいてばかりいて、すこし気かとがめた。

父がよろこんでいる時間を、もっと認められるようになりたい。
母に、書店で本を1冊買ったら、おまえに小さなうちわをもらえた ことを話したかった。今日は話せそうにないけれど、 これからすこしずつ、話ができるようになる気がする。そういうふ うに向かう努力をできる気がする。

すこしずつ、みんな、生きている。